Seiko Prospex Speedtimer × Datsun 240Z
ラップタイムを可視化せよ
セイコーと日産のコラボレーションで誕生した特別なスピードタイマーには、歴史ある両ブランドの技術、そしてこだわりが存分に生かされている。コラボレーションモデルの特徴に触れ、その魅力に迫ろう。

1969年に生まれ、後に世界を制したスピードタイマーとダットサン240Z。今回コラボレーションを組むにあたって、セイコーはこれを単なるデザインウオッチには仕立てなかった。同社が目指したのは、かつてのスピードタイマーがそうであったような、実際に使える腕時計だった。
今回、セイコーがコラボレーションとして発表したのは、機械式がクロノグラフと3針、そしてクオーツのソーラークロノグラフがふたつの計4モデルである。同社はダイヤルにブラックやレッドといった強いカラーを採用。加えて針とのコントラストを強めることで、視認性をいっそう高めた。

注目したいのは針の仕立てだ。メカニカルクロノグラフでは60秒を示すクロノグラフ針と30分積算針、12時間積算針が、3針のメカニカルでは秒針に赤い差し色があしらわれた。時間を見やすくするため、計時に関わる針の色を変えるのは時計業界の定石だ。しかし、クロノグラフでさえもファッションアイテムとなった今、こういったお約束に従ったモデルは希(まれ)になった。また、メカニカルクロノグラフのクロノグラフ針は、この価格帯では珍しく、ダイヤル外周の見返しに重ねられている。針の取り付けは難しくなるが、針の先端が見返しに重なるため、斜めからでも時間は読み取りやすい。

取り回しの良さも本作の美点だ。これらの4モデルは、ベルトを取り付ける4つの脚(ラグという)が短く切られている。クルマにたとえるなら、これはオーバーハングを短くするようなもの。結果として、細腕の人に合うだけでなく、シャツの袖やドライビンググローブに引っかかりにくい。また、さらに使いやすくするため、りゅうずを含めた外装からは丁寧に角が落とされている。軽快な着け心地は、ドライビングウオッチにもふさわしい。



また、メカニカルの3針モデルの内転リングには、ラリーのサービスタイムに従って、15分ごとに色が分けられた。「DATSUN」のロゴも面白い。1969年当時、「DATSUN」のロゴは統一されておらず、車種ごとにデザインされていたため、240Zには複数の専用デザインロゴが装着されていたのだ。現代であれば、ロゴは統一されるのが普通であるが、セイコーはあえて、そのバラバラのロゴをそのまま転用したのである。あえて違いを盛り込んだのは、セイコーの240Zに対する敬意の表れだ。
240Zファン好みのディテールを盛り込んだ4つのコラボレーションモデル。しかしいっそう重要なのは、これが実際使えるドライビングウオッチ、ということだ。しかも信頼性の高い「エンジン」に、視認性の高いダイヤル、そして軽快な取り回しというキャラクターも、1969年の240Zに全く同じなのだ。つまりこれは、本当の意味でのコラボレーションモデル、なのである。
(文=広田雅将/写真=岡村昌宏<CROSSOVER>)
CG9月号掲載記事を転載