Scroll
世界に流れる時間を旅して モスクワ編 世界に流れる時間を旅して モスクワ編

世界に流れる
時間を旅してモスクワ編

長く複雑な歴史のなかで、音楽をはじめ、舞踏や絵画、
文学といった文化・芸術が花開いた、ロシアの首都・モスクワ。

学生時代をこの地で過ごしたピアニストの清塚信也さんしかり、
西洋の資本主義が幅を利かせている現代において、多様な価値観や
イデオロギーに触れられ、かつ最高峰の芸術シーンが体験できるモスクワは、
空気を吸うだけで、クリエイターの創造力を刺激する場所なのだ。

これは、モスクワを訪れた、ある建築家志望の男性による物語である。

モスクワ地図
Morning
モスクワ朝モスクワ朝
 空が透き通るように晴れ渡った朝。私はノヴォデビチ修道院のそばにある湖畔にいた。16〜17世紀に建てられたバロック様式の女子修道院が湖面に映る水辺で、アヒルの親子が戯れている。作曲家チャイコフスキーが「白鳥の湖」の構想を練ったと言われる、静寂と平和に包まれた空間が、私を中世ヨーロッパの世界に誘った。大きな憧れを抱いてきたロシアの首都モスクワへ、ついにやってきた。

 モスクワ川を背にして湖畔を離れ、街を歩き始める。右側に広がる運動公園の中心にオリンピックやサッカーのワールドカップの舞台となったルジニキ・スタジアムがある。しばらくするとU字に蛇行するモスクワ川と再び出合い、金色をした難解なオブジェを冠のように乗せたビルが、橋の向こうから突如として現れた。ロシア科学アカデミーだ。市民が「黄金の頭脳」と呼ぶ、ユニークすぎる構造物は、ソ連時代の科学技術を象徴すべく設計、建設されたもの。莫大な資金と豊富な資源を背景に、ソヴィエト様式建築の技術を結集させたプロジェクトは、20年近く進められたものの、大きな不運に見舞われ頓挫する。完成を前に国家が崩壊してしまったのだ。
旧ソヴィエト原子力産業省の集合住宅
ノヴォデビチ修道院のそばにある湖畔
旧ソヴィエト原子力産業省の集合住宅
 レニンスキ・プロスペクト駅から地下鉄6号線に乗りシャボロフスカヤ駅で下車、20世紀前半に建てられたラジオ塔へ。編みかごをヒントにしたという、鉄線を格子状に組んだ、一切の無駄を省いた機能美。その電波塔は、「双曲面構造」を世界で初めて建造物に取り入れた天才建築家シューホフが後世に残したもの。やがてボリシャヤ・トゥーリスカヤ通りに差し掛かると、異様なオーラを放つ巨大建造物が目に入った。高さ50m、奥行き400メートルという、空母のような建物は1980年代初頭に建てられ、「シップハウス」「タイタニック」と呼ばれた旧ソヴィエト原子力産業省の集合住宅。全生涯を原子炉開発に捧げた人物が工事監督を努めており、ゆえに核爆発にも耐えうる建物として建設されたものと噂された。

 バロック、クラシック、アヴァンギャルド、スターリン様式、ソヴィエト様式など、個性的なスタイルが共存するモスクワは、建築を志す私のような者にとって、好奇心を激しく揺さぶる大都市だ。それはロシアという国が、帝国主義、社会主義、そして資本主義と多様なイデオロギーに刺激された「建築の実験場」だからに他ならない。社会主義レアリズムの手法に則った豪華な装飾から「地下宮殿」と褒め称えられるモスクワ地下鉄もその典型といえる。移動するたびにドラマチックな地下世界を体験するスリルは、今までに経験したことがない。
モスクワ地下鉄
モスクワスーパー
モスクワ地下鉄
Afternoon
モスクワ昼モスクワ昼
 街角のレストランが多種多様な肌の色をした人々で賑わっている。14時半。東京はいま何時だろうと思い、腕時計の時刻を確認する。世界初のGPSソーラーウォッチであるセイコー アストロンは、地球上のどこにいても正確な時刻表示をしてくれ、さらにローカルとホームの時間をボタン操作ひとつで瞬時に切り替えてくれる。時刻は普段の夕食どきである20時半、どうりで空腹を感じ始めたわけだ。

 多民族国家ロシアの食はまた非常に個性的だ。近世以降多大な影響を受けたフランス料理をベースに、ウクライナ、ジョージア、モンゴルなどのエレメントが加えられたモザイクのような郷土料理の数々が並ぶ。寒冷地の素朴な農村料理が、帝政時代に広範な食文化を包容して花開いたためだ。私はスメタナ(サワークリーム)をつけていただく「ペリメニ」と呼ばれる水餃子がたまらなく好きになった。東洋からやってきたであろう大衆料理を口にすると、これまで遠い存在だったモスクワの街が、ぐっと身近に感じられるからだろう。
モスクワの街
 午後、ロシアの首都の象徴であるクレムリンとボリショイ劇場で多くの時間を過ごした。「大きな劇場」を意味するボリショイはロシア古典様式の代表的建築、そしてオペラとバレエの殿堂である。赤いベルベットと対比する、黄金が散りばめられた白い光。気品と威厳に満ちた空間で、しばしの間、ロマノフ王朝の時代へのタイムトリップを楽しむことに。

 帝政時代から続くという高級食料品店、エリセーエフスキーで買い物を楽しみ、石畳が敷かれたアルバートスカヤの歩行者天国を散策する。三度、モスクワ川に差し掛かる頃には、太陽は西に傾きはじめていた。ずいぶんと遅い夕暮れだなと思い腕時計に目を落とすと、針は午後8時を指している。緯度の高いモスクワで、夏は21時を過ぎてもまだ明るい。ノヴォアルバツキー橋に出る。コンクリートの堤防沿いにはビルやマンションがひしめく風景は、どことなく東京の隅田川を連想させた。けれどもそこに立ち並ぶのは、この国が歩んだ歴史を示す建築群ばかり。壮麗ながらも威圧的なスターリン様式の摩天楼が堂々と鎮座している。夕日がドラマチックな魔法をかける。ライムストーンカラーの高層アパートを見事な黄金色に染め上げたかと思えば、ソ連時代の無愛想なコンクリートの塊すら、芸術的なオブジェへと変化させてしまった。
ノヴォアルバツキー橋
ボリショイ劇場
ノヴォアルバツキー橋
Night
モスクワ夜モスクワ夜
 結婚届を提出したばかりの夫婦が訪れるという「雀が丘」と呼ばれる高台に着く頃、日は完全に沈んでいた。モスクワの象徴のひとつ、美しくライトアップされたモスクワ大学本館が目に飛び込む。高さ240mに達する高層ビルを背に、夜の街を一望する。ノヴォデビチ修道院とロシア科学アカデミーが間近に見え、「セブンシスターズ」と呼ばれるソ連時代の高層建築群や近未来的なスカイスクレイパーが立ち並ぶモスクワ・シティが背後に点在していた。大胆かつ極端、情熱的かつ美的。地上も地下も、感性を刺激するエレメントが凝縮された首都。それがモスクワという唯一無二の個性であり、それこそが私の求めていたものだと改めて気づく。
雀が丘
「セブンシスターズ」と呼ばれるソ連時代の高層建築群や近未来的なスカイスクレイパー
 バルセロナのサグラダ・ファミリアしかり、カンボジアのアンコールワットしかり、時代が産み落とした名建築を前にすると、自らの思いはその時代へ、自然とトリップするもの。「社会主義の成功を誰もが疑わなかったかつて、人々はどんな未来を思い描いて、この場に立ったのだろう?」そんな思いを抱きながら私は振り返り、眩い光を放つロシア建築史上の最高傑作を見上げた。
モスクワ大学本館
セイコー アストロン グローバルライン オーセンティック SBXC049

セイコー アストロン
グローバルライン

SBXC049

1969年に誕生した世界初のクオーツ腕時計「クオーツ アストロン」から名前、ブランド理念、デザインを受け継ぎ、2012年にデビューしたセイコー アストロン。世界初のGPSソーラーを搭載し、世界中で正確な時を刻む。

¥210,000(+tax)

Scroll