アーティストとして世界の第一線で活躍するライゾマティクス(Rhizomatiks)の真鍋大度さん。未来を切り開くターニングポイントとなったニューヨークの旅について聞きました。
Profile
アーティスト、インタラクションデザイナー、プログラマー、DJ。 2006年にRhizomatiks 設立。設立15周年を契機とする個展が、東京都現代美術館で2021年3月20日~6月20日に開催。


ニューヨークは、人生のなかでよく通っていた場所だとか。
大学生の時はバイヤーとして、年に何十回とイースト・ヴィレッジのレコード屋に通っていましたし、その後もヒップホップDJとしてニューヨークのラッパーと一緒に仕事をしたことも。
ニューヨークという街には、どんな印象を持っていますか?
学生だった1995年頃は、ヒップホップやストリート・カルチャーが好きだったので、ニューヨークは憧れの場所でした。ここ数年も作品の発表や打ち合わせで年に3、4回ニューヨークへ行っていますが、旅の目的も遊び方も昔とは変わりましたよね。昔も今も変わらず、好きな場所です。
どんな部分に惹かれるのでしょうか。
音楽、ファッション、舞台もそうですが、様々な人種とカルチャーがミックスされているのが普通という考えがある。だから、僕たちが行っても「日本人」として扱われることなく受け入れてもらえる。同じ土俵で、純粋に作品で勝負ができるところですかね。




ニューヨークで過ごした日々のなかで、転機となった出来事はありますか?
21歳でDJとしてエージェントに所属していたときに、好きだったDJプレミア関連のラッパーと一緒にツアーを回ったのですが、ものすごくカルチャーショックを受けて。人種差別のある銃社会でメッセージを伝える手段としてヒップホップを選んでいた彼らと、日本で裕福に育って歌詞もあまりわからない状態でかっこいいと思っていた自分。そのギャップに「これは僕がやるべきことなのだろうか」と自信がなくなったんです。
それで、メディア・アートの道へ進まれるんですね。
誰もやっていないことをプログラムを使って実現するために、[IAMAS]で再び学ぼうと決めました。
その後、ターニングポイントとなった旅はありますか?
2008年の大晦日にオーストリアのリンツで開催されたメディア・アートのフェス「アルス・エレクトロニカ」に参加したことですね。新年のカウントダウンで、街中にスピーカーを置いてアルスエレクトロニカセンターのビルのファサードを光らせるという3日間のかなり短いプロジェクトに呼んでいただいて。僕は当時無名でしたが、尊敬しているメディア・アーティストのザッカリー・リーバーマンをはじめとする世界の錚々たるプログラマーとひたすらプログラムを書いて(笑)、作品を一緒に発表しました。
旅先ではどのように過ごされますか?
仕事が目的ということが多いので、その土地の人たちと一緒に生活をしながらコミュニケーションをして、五感で文化を感じることを楽しみます。必ず地元の人と一緒に動いて、その人の家に泊まったり、ご飯を食べて、お酒を飲んで、地元のDJのイベントに行ったり、ローカルブランドを探しに行ったり。逆に彼らが日本に来るときには、家に泊まってもらいます。





初めての挫折体験をお伺いできればと。
勉強しても分からないことはあまりなかったのですが、大学時代に数学科に入ってからは完全に挫折しました。大学院に進む選択肢もありましたが、「一生を数学に捧げられるか」と問われた時に数学の道は諦めました。
夢を叶えて、やりたいことをやれるようになったのはいつ頃からですか?
30歳あたりですかね。それでも25歳以降は本当にやりたいことだけをやってきましたし、今は10年前に比べたら夢のような生活をしていると思います。それこそ、趣味の延長として、世間に受け入れられずにやっていた時期も長かったので、2016年の閉会式で使ってもらえるレベルまで辿り着いたという今は、想像の遥か上に現実が来ている感覚です。これからは、次の世代にどうやって手渡ししていけるかを考えています。
今、夢を追っている若者へアドバイスをするとすれば、どんな言葉をかけますか?
成功する確率は宝くじが当たるよりも低いと思うような現実的な人間なので、「夢を諦めるな」みたいな根性論的考えはまったくありません。僕らはコラボレーターに恵まれたり、技術のトレンドと自分たちがやっていることがたまたまハマったおかげで何百倍もいい形で世の中に発信できてましたが、極論を言うと運が良かっただけだと思っています。もちろん、運を掴みとるための準備は必要ですが、掴めなかったときにも破綻しないようプランを練っておくことも大事かなと。
様々なプロジェクトに携わるなかで、アイディアを常に生み出すために、大事にしていることはありますか?
ひたすらリサーチすることですね。資料があまり残っていないものは、その分野の方にインタビューさせていただいたり、専門家に調査を依頼したりなどしています。
インプットをしすぎてショートしてしまうことはないんでしょうか。
ショートするまでやります。これ以上入らないところまで詰め込むと、自然とアイデアが出てくるんですよね。アート作品をつくることは、基本は作品研究なんです。過去の作品や工学研究について調べたり論文を読んだりというリサーチが95%ぐらいで、あとの5%でアイディアを出力する。実装はまた別のフェーズですが、僕の場合、企画でアイデアを出すフェーズに関してはほとんどリサーチしています。「今何がやられていなくて、何を未来に残すべきか」ということを考えながらやっています。




常に時代の「一歩先」を行くことを意識されているんですね。
僕たちのいる分野は、美術館やシアターという特殊な空間では意外と「一歩先」、2,3年先の表現を行うことは出来るんです。これまでやっていた作品も、数年経過すると仕組み的な部分は一般化していきますね。これは逆に脆さにも繋がるのですが。
時計にはどんな役割を求めていますか?
今は時刻を知る手段はたくさんあるので、機能として求めるというより、ネットワークが全くない場所、食事をしているときなど、スマートフォンの画面を見たくないような状況で生かされるものかなと。自分の時間の過ごし方をツールが管理してくれることを便利に思う一方で、貧しい気持ちにもなることがありますよね。仕事に関しては最適化できても、普段の生活ではそうしたくないという思いはあります。例えば、僕は未だにレコードで音楽を聴きます。デジタルと比べて耳で聴き取れるレベルの音質の違いはそこまでないですが、針を落として聴くという行為を大事にしたくて。時計も同じで、仕草も含めた物質的な良さがありますよね。
最後に、「セイコー アストロン」の印象を聞かせていただけますか?
時計ってハードとソフトの組み合わせの面白さが揃った精密技術の最高峰だと思うんです。エンジニアというより職人が作っているものだからこそ自作はできないだろうし、分解して細部まで中身を見てみたくなります(笑)。


セイコー アストロン
グローバルライン スポーツ
SBXC063
1969年に誕生した世界初のクオーツ腕時計「クオーツ アストロン」から名前、ブランド理念を受け継ぎ、2012年にデビューしたセイコー アストロン。世界初のGPSソーラーを搭載し、世界中で正確な時を刻む。
¥260,000(+tax)