ファッションディレクター/西口 修平
独自のスタイルを貫くさまざまな方に、キングセイコーの魅力をお聞きするインタビュー企画の第5回目。今回は、SNSに16万人以上のフォロワーを持ち、ファッションディレクターとして活躍する西口 修平さんに、既存の価値観にとらわれず、伝統と革新を自在に行き来する美学についてインタビューします。
1977年大阪生まれ。大学卒業後セレクトショップに入社。現在はメンズファッションディレクターとして、ブランドとのコラボレーション、ディレクション、商品企画、メディア出演、書籍執筆など、マルチに活動。クラシックのみならず、古着、ヴィンテージにも精通し、クラシックとヴィンテージをミックスした独自のスタイルには定評がある。インスタグラムのフォロワー数は現在、16万人を超える。
私自身、クラシックな服からファッションに目覚めたタイプです。大学時代、セレクトショップでアルバイトを始めたのがきっかけでした。
卒業後はビームスに入社し、メンズファッションを中心にキャリアを重ねてきましたが、気づけば「伝統を守る」だけでは満足できなくなっていたのです。
たしかに、クラシックには美しさがある。でも、ただそのルールをなぞるだけでは、なんだかコスプレみたいで自分らしくない。だったら、自分なりに解釈して、新しいスタイルにしていくしかない。そんなふうに思って、古着やヴィンテージの要素をミックスするスタイルを模索し始めました。
実際、それは簡単なことではありませんでした。保守的な意見もありましたし、試行錯誤の連続。でも、本当に着たいものを信じることで、ようやく自分のスタイルを築けた気がしています。
腕時計との向き合い方も、まさにそれと同じです。僕が最初に手にしたのは、アメリカ製の古い機械式腕時計。当時5万円くらいだったと思います。でも、その腕時計にはちゃんと物語があって、たとえ高価でなくても、自分にとって大切な一本でした。
私にとって、腕時計は“スタイルを完結させる最後のピース”のような存在です。洋服を組み合わせるときに、色やシルエット、素材だけでなく、そこにどんな腕時計を合わせるかで、全体の印象がガラリと変わってしまいます。たとえば、スーツの袖から覗くレザーストラップの腕時計ひとつで仕事への姿勢が語られてしまうような、そんな繊細なバランスがあります。
ただ、腕時計もファッションも、最終的には“自分をどう表現するか”という軸に立ち返るのだと思います。世の中には、誰かの真似をすればそれっぽく見えるスタイルもある。でも、そこには自分らしさが宿らない。むしろ、自らの経験や思考が自然と染み込んだスタイルこそが、人に深く伝わるものです。
キングセイコーは、そんな“表現の余白”をちゃんと与えてくれます。クラシックな顔をしながらも、硬くなりすぎない。あえて古着やミリタリーと合わせ、ネイビーブレザーにミリタリーパンツ、足元はブラックのレザーシューズ、そして腕にはグリーンダイヤルのキングセイコーとすることもでき、スタイルを選ばず寄り添ってくれる。だから私はこの腕時計を、ただの“ファッションアイテム”としてではなく、“自分自身の生き方に重ねるツール”として見ています。
初めてキングセイコーを手にしたとき、なんというか、妙な親近感を覚えたのです。小ぶりなケース、品のあるダイヤル、そしてそこに込められた丁寧な意志。そのすべてが「真面目」なんですよね。
でも、ただの真面目じゃなくて、ちゃんと“今”の空気をまとっている。服でいえば、昔ながらのボタンダウンの白シャツを、いまの空気でさらっと着こなすような。そんな佇まいに惹かれました。
クラシックを軸にしながら、そこに現代的な視点や自分らしさをミックスしていく――
これが、私がこれまでファッションと向き合ってきた中で築いてきたスタイルです。
たとえば、キングセイコー KSKのシルバーダイヤル「SDKA005」やブラックダイヤル「SDKA007」の王道モデルは、基本中の基本であり、スタイルをブレさせない基盤のようなものです。ネイビーブレザーにグレースラックス、ローファーといった正統派のアイビースタイルにも、今どきのセットアップスタイルにも自然に馴染む。その“普遍性”こそが、このモデルの魅力だと思います。
一方で、ラウンドフォルムであるキングセイコー KS1969のようなレトロフューチャーなモデルには、また別の色気があります。当時の空気感をまとった造形美、その薄さと軽さ、そしてブレスレットの幅とのバランスが絶妙で装着感も抜群です。
だからこそ、あえて少し“外す”スタイルで楽しみたくなります。たとえば、ミリタリーパンツにブレザーを羽織り、ブラックのプレーントゥを合わせる。そんなミックススタイルに、このモデルはすんなりと馴染んでくれます。
結局、どのモデルにも共通しているのは、「自分らしく着こなす余白」がちゃんと残されていることです。これは、キングセイコーの根底にある“伝統と革新の同居”がなせる業だと感じています。伝統を大切にしながらも、現代のスタイルに寄り添い、自分らしさを受け入れてくれる。この懐の深さこそが、キングセイコーの魅力なのだと思います。
そして、東京という都市の記憶を内包しながら生まれ変わったキングセイコーの姿に、私は“未来のクラシック”を感じました。着こなしの最後にそっと添えるだけで、スタイルに奥行きが生まれる。そんな“粋”とも言える存在のような気がしています。
KS1969のパープルダイヤル「SDKA019」も面白いと話す。「タキシードスタイルを少し崩して羽織るような夜の装いで、あえてこのモデルを着ける。そんな想像をすると、ぐっと気分が上がります。腕時計が放つ妖艶さが、レザージャケットや黒シャツなど、色気のあるスタイルに自然と馴染みます」(西口)
「SDKS029」はワンタッチでブレスレットを外すことが可能であり、幅が同じ別売りの専用レザーストラップを装着できる。「私はレザーストラップが好きでフォーマルでもカジュアルでも身に着けるので、こうしてバリエーションがあると、さまざまな遊び方ができて楽しいです」(西口)
ファッションにしても腕時計にしてもですが、百聞は一見にしかずと言いますか、実際に身に着けることの重要さってあると思います。高級腕時計は腕に乗せた瞬間にオーラのようなものを感じる出会いがあるのです。
それは情報だけでなく、実際に体験しないとわからないこと。良い物を取り入れることは、大人のファッションにおいて絶対にこだわるべきポイントですし、購入して一日着けてみて初めて、そうした感覚が養われていくのだと思います。
これからの時代、それぞれのライフスタイルに合わせたモノ選びがさらに意味を持ってきます。そうしたときに、他人から勧められたからという理由で選ぶのではなく、どれだけ「自分らしさ」をアウトプットできるかが問われる時代になるのではないでしょうか。
まだ47年しか生きてない自分が言うのもおこがましいですが、「伝統や革新」というものは、時代にフィットしながらも、合わせすぎないアウトプットが必要になります。キングセイコーはそんな“日本人の哲学”みたいなところが投影されていて、自分がファッションで表現しようとしていることと、深い部分で通じ合うものがあると感じています。
伝統を大切にしながらも、ただ守るのではなく、今という時代に即して更新していく。過去を敬いながら、現在にフィットする佇まいを模索する。その姿勢は、まさに私がファッションの世界で長年追い求めてきたテーマそのものです。
温故知新。過去を重んじながら、新しい価値を生み出していくことの楽しさを、これからも自分なりに伝えていきたいと思っています。
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